代表取締役木嶋諭(2003年工学部電子卒)
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平成23年度総会 支部長挨拶
この日本が、混迷を深め、国内はもとより、グローバル時代と言われている中、経済が、不安、低迷の真っ只中、政治までもが、混沌として、信頼と、自信を失っている今日、空調メーカーとして、売上世界一を達成されたことは、快挙であり、範とすべきことであります。
大阪支部校友の、誇りでもあります。また、大阪校友の願いでもありました、同志社校友会会長にも、この4月より就任され、同志社校友としても、普遍的なものを守り、新しいことへの、チャレンジを目指し、一体感の感じられる校友会に作り育て上げていただけるものと、大いに期待いたしておりますところであり、この時あたり、大変多忙な時ではありますが、講演を、お願い致しましたところ、快くお引き受けいただき、実現かないました。たいへん、うれしく思います。また感謝申し上げます。要点を、記載させていただいておりますので、お話になられました内容一言一句漏らさず記載されておりませんことを、お許しください。
同志社校友会大阪支部
支部長 宮本 利亮
「井上礼之 同志社校友会会長の講演」 平成23年7月6日
テーマ・・・「空調世界一へ」リーダーシップとトップの舵取り
【 講師の紹介 】
ダイキン工業株式会社 代表取締役会長兼CEO
同志社大学校友会会長 井上 礼之氏(いのうえ のりゆき)
昭和10年京都府生まれ76歳 同志社中学校、同志社高校を経て、昭和32年同志社大学経済学部卒業。同年、大阪金属工業株式会社(現:ダイキン工業株式会社)入社。工場企画室、人事部長、人事総務担当役員、化学事業担当役員から平成6年代表取締役社長就任。平成14年代表取締役会長兼CEOに就任。平成23年 ダイキン工業を空調世界一の企業に導いた。同時に同志社校友会会長に就任、新しい校友会のリーダーとして期待が集まる。
日本経済団体連合会・関西経済同友会・関西経済連合会・大阪府雇用開発協会会長・大阪府工業協会会長・大阪防衛協会会長など役職・代表を歴任。多くの企業の社外取締役にも就任している。著書は2008年「基軸は人を貫いて」など。
≪はじめに≫
○大阪支部の皆様、こんばんは。本年4月より校友会会長に就任させて頂きました井上でございます。どうぞよろしくお願い申し上げます。
○講演をさせていただく前に、まずは先般の東日本大震災により被害を受けられた方々に対して、本日ここにご出席の皆様と共に心よりお見舞いを申し上げます。1日も早い復興を祈念いたします。
○さて、改めまして、校友会本部を代表し、この度の大阪支部総会の開催を心よりお慶び申し上げます。本日は、ご多用の中、法人同志社より、大谷総長、野本理事長のご臨席を頂いております。日ごろより校友会の活動に対して深いご理解と温かいご支援を賜っておりますこと、校友会を代表し、壇上からではございますが厚く御礼申し上げます。
○宮本支部長におかれましては、日ごろより活発に支部を運営され、また本部と連携した校友会活動へのご支援を賜り、心より御礼申し上げます。本日の総会の開催、誠におめでとうございます。
○副支部長としてこの大阪支部には長い間大変お世話になってきました。私どもの会社が大阪に本社を構えることもあり、この大阪支部は私にとって特別な思い入れのある支部でございます。本日ご出席の原・前支部長にも大変お世話になりました。重ねて御礼申し上げます。
○さて本日は、「リーダーシップとトップの経営の舵取り」といったテーマで何か話をせよ、との事務局のご指示ですので、経営論のようなものを40分程お話させていただきます。大上段に構えた話はいたしませんので、どうぞリラックスして聞いていただければと思います。
○大きく2つの観点からお話します。
(1)一つは組織マネジメントのあり方についてです。世の中には100年を超えて発展し続けている、いわゆる「永続企業」と呼ばれる企業があります。そうした企業はどのように組織を回すことで、持続的に発展してきたのか、そうした企業の組織・人材マネジメントについて考えてみたいと思います。
(2)もう一つは、企業を永続的に成長発展させていくために、経営トップにはどのような資質が求められるのか、5点述べたいと思います。
≪1.遠心力と求心力の組織マネジメント≫
○「変化の時代」と言われる今、外部環境の変化は急激であり、予想がつきません。その変化は非連続なものであり、不確実性に満ちたものです。リーマンショックに象徴されるように、企業経営を取り巻く環境は「一寸先は闇」といっても過言ではありません。
○そのような厳しい外部環境を前にして、企業が持続的に成長発展していくために求められる「組織マネジメント」とはどのようなものでしょうか。
○組織マネジメントのあり方に関して、サッカーのマネジメントを例に挙げてお話します。かつてサッカー日本代表チームを率いたフランスのトルシエ監督の組織運営と、ブラジルのジーコ監督の組織運営の違いです。
○トルシエ監督は選手を規律で縛った管理サッカーを進めました。監督の指示・采配に選手が一丸となって従うようにするトルシエ流サッカーは、「求心力」を重視した組織マネジメントです。戦術を選手の頭に徹底的に叩き込み、そのために厳しく管理する「トルシエ流」は、マスコミなどから「宣教師トルシエ」と揶揄されました。
○一方、ジーコ監督は、トルシエ監督とは正反対でした。個人の力を重視し、選手の自立心に委ね、自由奔放にプレーをやらせました。こうした「ジーコ流」は「遠心力」に軸足を置く組織運営です。もっとも、マスコミというのは節操がないもので、今度は「何も教えないジーコ」と批判しましたが・・・
○この両者の関係を単純化して言うと、「トルシエ=規律(決まり事)」ということに対して「ジーコ=自由(判断力ないし創造性)」という二項対立の図式です。さて、今の時代に適した組織マネジメントを考えた場合、「求心力(集権型)のトルシエ流」か、それとも「遠心力(分権型)のジーコ流」のどちらが良いのでしょうか。
○一般的には、遠心力を重視した分権的なジーコのような組織運営に憧れている人が多いようです。例えば、現場第一線で働いている人に多い不満に次のようなものがあります。「いまの仕事が窮屈で自由度が小さいのは、中央集権的な組織構造が原因だ。そうしたヒエラルキー構造を壊して分権的な組織運営に改めれば、もっと自由にいきいきと仕事ができるはずだ」といった不満です。
○これに対する私の答えはこうです。「分権型の組織運営(ジーコ流)なのか、それとも集権型の組織運営(トルシエ流)なのか」という二元論の捉え方は現実的ではない。経営が順調で軌道に乗っているときは、分権型の組織運営で現場第一線に権限を委譲する。一方で、企業に抜本的改革が必要な非常時には、集権的な組織運営を行う。
○すなわち、「平時」においては現場に権限を委譲する自律分散型の経営を志向する。しかし、「有事」には現場から権限を剥奪してでもトップが即断即決する、といった「柔構造の組織運営」です。
○これは、企業経営における「戦略的集中」と「機能的分権」のバランス、あるいは「全体最適」と「部分最適」のバランスをどう実現していくのか、ということでもあります。これは企業経営における古くて新しい課題です。
○分権型の組織運営では、米国のGEの成功事例が有名です。GEはカンパニー制の下で自律分散型の組織運営をしています。各カンパニーの社長は、「全体最適」と「部分最適」のバランスをとりながら、自律的に各カンパニーを経営しているとされます。
○GEの成功はむしろ例外であって、GEの実行しているカンパニー制というものは、誰もがそう簡単に真似ができる代物ではないようです。事実、本家の米国でもカンパニー制という組織形態は減りつつあります。
○なぜGEは分権型の組織運営に成功しているのか。それはGEが全社員で「価値を共有する」ということに大変な努力をしているからです。GEの前会長のジャック・ウェルチ氏は次のように言っています。
○「権限を与えるだけでは会社は動かない。組織を動かすためには、会社の価値観、GEバリューを徹底的に植え付けて、そのバリューに入らない人は、どんなに優秀な人でも辞めてもらう」。
○私も全くそのとおりだと考えています。当社は今、グローバル競争を勝ち抜くために世界中で優秀人材の採用・育成を進めていますが、ダイキンの価値観、フィロソフィーに共感・共鳴してもらえる人材を探しています。いくら優秀な人材でも、ダイキンの価値観と異なる考え方の人はコア人材としては登用しません。そうした軸のブレない経営が、これからのグローバル時代にはすこぶる重要だと考えています。
○世界的に成功しているグローバル企業というのは往々にして母国の匂いが強いというか、非常に「ローカル色」が強いものです。おそらく、世界的な普遍性を持ち得る企業というのは、むしろ固有の理念というか価値観が強烈に組織に刷り込まれているところが多いようです。
○逆に言えば、グローバリゼーションの過程でダメになっていく企業は、そこが無色透明になってしまう。どこの国の企業だかよく分からない根無し草のような組織になっては勝ち目はありません。
○グローバルに成功している企業には、経営風土や組織のDNAといったしっかりとした"縦軸"が組織を一気通貫で貫いています。そうしたしっかりとした"縦軸"があったうえで「こういう事業を世界で展開するんだ」という"横軸"が上手く機能している。そうした「芯のある企業」が世界で成功している。ところが、日本では90年代後半のバブル崩壊以降、その"縦軸"を欧米流に変えることがグローバリゼーションだと思い込んだ企業が多かったように思います。
○組織の哲学、経営理念が大事です。頭のいい経営企画スタッフが多い組織ほど、必ず制度とか組織の変更をしたがりますが、あまり意味がないと思います。なぜなら、制度を運用するのも、組織を動かすのも人間です。つまり、個々人の行動が変わらない限りは、組織・制度をいくらいじってもまったく効果がありません。経営理念はまさに個人の行動の規範を構成するものなので、ここをまずやらずして組織・制度変更をしてもほとんど効果がないと思っています。
○ちなみに、GEには「クロトンビル経営開発研究所」という有名な幹部研修施設があります。その研修施設の目的は、「世界中を見渡し、部門を見渡し、巨大なGEというコングロマリットを頭の中で1社と考えられる経営人材」を育成することにあります。全体最適の視点と部分最適の視点を兼ね備えた経営スタッフの養成です。つまり、全体最適がわからない人間には、部門の長は任せられないということです。
○話が少し横道にそれました。ポイントとして申し上げたいことは、GEのような超優良企業はもとより、時代を超えて生き残る強い企業は「遠心力」と「求心力」のバランスを巧みにとっている、ということです。
○当社グループは、事業の急速なグローバル展開で発展してきました。海外拠点も社員数も大幅に増えました。今後も、新興国を中心にグローバル展開を加速し、今まで以上のスピードで「経営の現地化」を進めていかなければなりません。
○海外拠点の遠心力を高めつつ、グループ全体の求心力をどう維持していくか。当社が今、直面している大きな課題です。働く人一人ひとりの自主性や創造性を高める「遠心力」と、グループとしての一体感を保つ「求心力」のバランスをいかにとっていくのか。経営手腕が試されると気を引き締めています。
≪2.企業の永続的発展に求められる経営トップの資質 〜5点〜≫
(1)決断力と実行力〜「正解」のないことに答えを出す〜
○それでは、次に企業が永続的に成長発展していくために求められる経営トップの資質について5点、簡単に述べます。
○現在のような時代の変革期、先行きの見えない時代にあって、まず経営トップ・リーダーに求められる資質は、決断力(意思決定する胆力)と実行力です。
○経営というものは、「決断力」(より具体的に言えば「意思決定するスピードと胆力」)と「実行力」の掛け算だと考えています。「意思決定するスピードと胆力」と「実行力」は組織における車の両輪のようなもので、どちらが欠けても、組織はうまく廻りません。
「経営力」=「意思決定する力」×「実行力」
〇リーマンショック以降、グローバル競争の最前線においては「意思決定の力(意思決定のスピード)」×「実行力」=「経営力」という構図が、より鮮明になってきたように思います。スピード経営を旨とする中韓メーカーや欧米メーカーと伍して戦っていくためには、当社もそうした「経営力」を一段と強化していくことが必要だと感じています。
○私の経験で言えば、物事が上手く行っているときや、好調なときの決断にはさほど難しさを感じることはありません。意思決定する時に一番難しいのは、「正解」がない状況での決断です。
○ロジックの積み重ねで合理的に判断できるような問題、例えば日々のオペレーション上の問題であれば、経営トップでなくても現場レベルで対応できます。しかし、先の見えない状況の中で組織としてどこを目指せば良いのかわからないときに、組織の進むべき方向を決断するのは経営トップの役割です。
○頭の良い人、受験勉強が得意だった人たちは、どんな状況下でもどこかに「正解」があると思っているように映ります。しかし、経営というものに唯一最適の答えはありません。そして、リーダーシップというものは、「正解」がないときにこそ、求められるものです。
○経営というのは社会科学です。アイデアや戦略などが有効かどうかを検証する唯一の方法は、実行してみることです。正解かどうかは、実行してみないとわからない。ホンダの本田宗一郎は「やってみもせんで、何がわかる!」と、決断と実行の本質を喝破しています。
○組織の「実行力」に関してトヨタの話をします。トヨタの強さは「実行力」にあると言われますが、何を実行する力だと思いますか? それはPDCAを回す力です。
○トヨタの強さは迅速にPDCAを回す組織能力です。戦略が特に優れているわけではありません。有名なトヨタ生産方式は製品の品質と生産の効率化を高い次元で実現させた「方法論」ですが、それは進むべき針路を決める戦略ではありません。
○トヨタの強さの源泉は生産、販売、物流などの機能において、日々PDCAを徹底的に回していることにあります。「なぜを5回問う」や「カイゼン」はトヨタのPDCAの強さを象徴する言葉ですが、それを「組織のクセ」にしている。しかし、それを「組織のクセ」にするのは容易ではありません。なぜか?「人間の本性は働くように出来ている」と言ったのは、スイスの哲学者ヒルティですが、私は「人間の本性は怠けるように出来ている」というのも、もう一つの事実だと思っているからです。
○人間は見たい現実しか見たくない生き物です。戦略や計画はうまくいかないことのほうが多いもの。うまくいかなくても、「見てみないふり」をしたいのが人間の性です。当然のことながら、PDCAはすんなりとは回らない。その人間社会の現実を直視、理解することがまず必要です。
○怠けたいという人間の本性に逆らう行動を自然にできるレベル(組織のクセ)に高めるには、そうした人間の本性を絶えず「意識化」する必要があります。
○「当たり前のことを当たり前にやる」ことが難しいのが経営です。日々の業務を自然に任せて、人間の本性に流されていると、組織の「実行力」は高まりません。リーダーの役割は「凡事徹底」を自らが率先することでもあります。
○「実行力」というのは日々の愚直な活動の積み重ねの結果です。しかしながら「愚直に続ける」というのは「言うは易し行うは難し」です。野球のイチロー選手の愚直さは常人にはなかなか真似のできない非凡な「才能」です。将棋の羽生名人が次のように言っています。「才能とは、継続できる情熱である」。良い言葉だと思います。
(2)情報力 〜世界の動きや時代の変化を見据える「3つの眼」〜
○2つ目の資質は情報力です。経営トップ、リーダーたるものは世界の動きや時代の変化にアンテナを絶えず張っておく必要があります。人間というものは、知らず知らずのうちに視野が狭まり、世の中の動きや時代の流れからズレてしまうことがあります。変革の時代と言われる中にあって、背筋を伸ばし、目線を上げて、世界の動き、世の中の動きを深く見据えることが肝要です。
○組織を率いるリーダーには「虫の眼」、「鳥の眼」、「魚の眼」の3つを兼ね備えることが求められます。
→「虫の眼」とは、近いところで複眼をつかって様々な角度から注意深く見る眼のこと。これは部分最適の視点。
→「鳥の眼」は虫では見えない広い範囲を、高いところから俯瞰する眼のこと。これは全体最適の視点。
→そして「魚の眼」とは潮目の変化、つまり時代の変化を敏感に感じる眼のこと。これは時間軸の視点、歴史的な観点です。
○企業経営に置き換えると、まず現場に出向いて顧客や商品に直に接して、実態を知るのが「虫の眼」。
○次に「鳥の眼」。これは全社的な観点から自社はどんな状況に置かれていて、何が最重要な問題なのかを感じるのというもの。
○そして、「魚の眼」。これは自社や業界の置かれている環境が時代の変化の中で、どのように変わっていくのかを感じ取る眼だと言えます。
○企業経営においては「3つの眼」を駆使して、顧客の変化、市場の変化、ライバルの動き、技術の変化、時代の変化などを鋭く察知していかなければ、永続的に成長発展していくことは難しいと思います。
(3)人を束ね、衆知を集める
○3つ目の資質は人を束ねる能力です。経営とは人の営みです。「企業は人なり」の言葉のとおり、経営とは人間を理解することです。ある事業目的に向けて、集団としての人間を有機的に結合し、機能させることができて、はじめて経営というものは成り立ちます。
○一人ひとりの社員の力が、集団として同じ方向を向いたとき、その組織はとんでもない力を発揮します。そのとき、個人の頭の良し悪しなどは関係ありません。逆に言えば、いくら個々人に能力があっても、ベクトルを合わせることが出来なければ、組織としては機能しません。
○今年、おかげさまで、当社は空調事業でグローバルNO1の座を手中に収めました。しかし、当社は世の中と比較して、ずば抜けて優秀な人材がいる会社ではありません。一人ひとりの力の積み重ね、チームワークの総力戦で走り続けている会社です。
○リーダーには組織を一つに束ね、衆知を集める能力が問われます。しかしながら、「人を束ねる」ことは容易ではありません。組織は「感情の体系」です。会社に居る様々な人が、どんな気持ちで、どんな背景を背負って働いているのか。そうした一人ひとりの心の襞を読み取ろうとする感性が備わっていなければ、組織を束ねることはできません。人の心の機微や情がわからなければ、組織は動きません。
○頭の良い人ほど、この人間社会の当たり前の事実を忘れています。論理の正しさで人を動かそうとする。理屈をこねればこねるほど、人は面従腹背します。そうした「人間の性」が理解できていないと、組織のリーダーにはなれません。
(4)「腹に落ちるコミュニケーション」が出来る
○4つ目の資質はコミュニケーション能力です。コミュニケーションの巧拙は組織のパフォーマンスに大きな影響を与えます。人間は言葉を介して世界を捉えています。しかしながら、最近はコミュニケーション下手な人が多いようです。
○組織内のコミュニケーションに関して、上の人間が理解していなければならないことを申し上げます。
○ひとつには、上の立場になればなるほど、現場の最前線の実態に関する情報は入ってこなくなる、ということです。特に悪い情報は上の人間になかなか上がってきません。キャノンの御手洗さんが「バッドニュース、ファースト」と仰る所以です。組織の情報は下意上達のプロセスの中で、フィルターがかかります。現場の泥水の情報が瓶詰めされたミネラルウォーターに変わることも起こります。そのように上がってきた真水の情報に頼ると足をすくわれます。
○ローマの政治家、ジュリアス・シーザーの言葉に「人は自分の見たい現実しか見ない」という言葉があります。この解釈を援用すると、部下は上司の「見たい現実」しか報告しないということになります。
○また、情報の上意下達のプロセスでも問題は起こります。トップやリーダーが送り出すメッセージに対して、すぐに心から賛同して、すぐに行動に移す人間はそんなに多くありません。下はトップやリーダーが本気でそのメッセージを送っているのか、それに応えることが自分にとって得なのか損なのか、自分の気持ちにフィットするかしないか、など、そのメッセージを「値踏み」するものです。
○人間は一人ひとりが違います。一人ひとりの心の機微や感情の揺れ動きなどを感じとろうとするリーダーの気持ちが伝わらなければ、組織に「納得性」は生まれません。人間は弱いものです。自分のことを誰かが見ていてくれる、というメッセージが伝わってこそ、人は動きだすものです。コミュニケーション能力は経営トップに不可欠の資質です。
(5)率先垂範し、部下の心に火をつける
○経営トップはもとより、先頭に立つリーダーに最も求められる資質は、率先垂範です。先行きが不透明で不確実な時代にあって、最初の一歩を踏み出し、周りの人の迷いを吹っ切ってあげることが、トップに立つ人の重要な役割です。まず、自分が動くことで周囲を巻き込み、惹きつけ、組織全体が自律的に動くようにしていくことです。
○リーダーというものは、まず自分自身が動く。そのときに周囲の人は彼の背中にリーダーシップを見る。そのことが周囲の人を動かし、組織全体を動かしていきます。
○リーダーはリーダーの役割を続ける中で成長していくものです。人はリーダーになろうとしてリーダーになるのではなく、「熱い想い」を実現しようとして試行錯誤を続ける中で、周りの人々がリーダーと認めるようになるのだと思います。
○従って、リーダーシップは結果であって目的ではありません。とことん追いつめられたときにどう対処するかが勝負の分かれ目です。人間の能力に大きな違いはありませんが、挑戦し続けられるかどうかで違いが出てくると思います。そして、そこを乗り越えた人がリーダーになっていくのだと思います。これはskill(スキル)の問題ではなくwill(意志)の問題だと思います。
○最後に、アメリカの教育者、ウイリアム・ウォードの素晴らしい言葉を紹介して終わります。
「凡庸な教師は命令する。良い教師は説明をする。優れた教師は範となる。偉大な教師は心に火をつける」
○教師という言葉を経営者に置き換えれば、経営の要諦を示す言葉だと思います。長らくのご清聴、ありがとうございました。